目次

2012年12月1日更新(51号)

五匹の金魚    馬宮 敏江

鈍色の雲重く垂れ刈込みし並木の槐こぶし振りあぐ
柊の師走も待たず花ひらくハイビスカスの咲ける憂鬱
塀越しのみごとに咲ける金木犀朝窓ひらき香りいただく
「幸せ」を絵にしたような秋日和もくせい咲く町ペダルを踏んで
古い家並きのう毀され今日更地町あたらしく人あたらしく
旅終えし友の土産の栗落雁信濃の風もともに包みて
ふる里は能登路の珠洲と詠みし友すっかり短歌(うた)を捨ててしまいぬ
ハリケーン・暴雨地球の大異変ディエゴの樹下に秋明菊咲く
整骨院に治療受けつつ師と話す今日は子猫の生まれた話題
秋の実の造花のリースは友の片見今年も壁に十年を経ぬ
姫水蓮のみの水槽はなやぎぬ嫁が入れしか金魚が五ひき
追いつまた追われて藻の間に見え隠れ小さく赤い五匹の金魚
水蓮の葉かげに赤き口揃へ五匹の金魚に癒やされる日々
一服がひと日の始めお供への後の至福を今日は八女茶で
ノーベル賞山中教授受賞さる思わず拍手一人の部屋に
「お久しぶり」挨拶交す友の肩吾も貼りたる膏薬の見ゆ
人ごとと思いし日々の医者通いいつしか吾も習いとなりぬ
昨日ひとつ今日またひとつ玉すだれ夕べの風に秋をともない
淡路道紅葉まといひた走るひときわ目を射るななかまどの朱
如何ほどの電力生むや淡路島岬に数増す眞白き風車
見上げたる空にひろがる秋の雲機上に眺めた旅も過し日
小さき庭に鳥のみやげか蓼の花朝夕椿と共に水遣る
いやいやも食べねばならぬ野菜とか胡瓜レタスを細くきざむ
今日こそはいや明日にと引き伸ばす電話苦手の吾が悪き癖
会話なく二日つづけばおしゃれして明日は出掛けん秋色の街
久びさに訪れし娘は絶え間なくメール打ちつつ吾が話きく
眠られぬ夜をいく度も開く歌集友に賜いし白秋「桐の花」
旅好きの夫の踏まざりし沖縄を遺影と共に何時か訪ねん
百余年経し柿の幹くろぐろと亀の甲羅のごとく苔生う
百余年家の重さと共にあり折れんばかりの柿の実を成す

▲上へ戻る