目次

2012年9月1日更新(50号)

これは何の芽    馬宮 敏江

故郷は五十年が行き止まり(柳田國男)吾の故郷は六十年を経し
故郷の風見に行かな吾待つは無住となりし古き家のみ
すだれ洩るひかりのすこしやわらぎて窓辺のりんどう青く色増す
富士真奈美。浜木綿子さえお(ばば)役 仕方ないかと朝の鏡に
目の前にふえるリモコン時としてテレビとエアコン間違えて押す
送り火の煙たゆたい西空にまた来年とみ霊送りぬ
盆帰りの娘の帰郷見送りぬやっと普通のくらしに返る
庭先に これは何の芽 云ううちに緑の秀伸び数珠玉らしき
朝の窓開ければ飛び込む隣家の末枯れしあじさい切りたく思う
黒雲を縦横に走る雷鳴に どさっと降ればね 隣同士で
只一本植えし朝顔軒に伸び小さいながら初花ひらく
ひねもすを熱中症にかこつけていたづらに過ぐ贅沢の日日
住む人と共に古りたり家具・器具の一入喘ぐ給湯器のこえ
土用干しの梅の香りの庭に満つ()が始めしかこのならわしを
カーテンの閉ざされしまま三とせ経ぬやもめ暮しを友逝きてより
ひとり旅せし青年の伊勢まいり赤福食べたと床几でひとり
猿田彦 内宮 外宮 天の岩戸 国のはじめに少し触れぬと
シルバーカー押して寄り来るスーパーの開店前は老いの話し場
ディコの花、夾竹桃の咲き狂い暑さなお増す凌霄花(のうぜん)の揺れ
あおぎ見るは子等の歓声(こえ)のみ校庭に孤高をかかげ泰山木の花
日本列島すべて雨なり予報図の傘がいっぱい並んで揺れる
整形のウオーターベッドに身をゆだね至極の七分もみもみされて
昨日ひとり今日もひとりと長電話スマフォン・メールを知らぬ仕合せ
焼き魚、シチューのにおいこきまぜてひとり身に沁む夕ぐれの道
仙谷さん始めて良いこと聞きました「もう ろうそくには戻れない」
日本の叡智をあつめし原発を軽く反対でいいのでしょうか
背も腕も傷痕いたし航平選手金のメダルの何と重たき
泣きながらバット振りいし三歳の愛ちゃんの夢二十年を経て
ささにしき、わかめの味噌汁、焼き卵これで事足る気楽さもあり
古代より食の原点米食をメタボ恐しと避ける息子ら

▲上へ戻る