目次

2012年6月1日更新(49号)

金環日食    鈴木 禮子

きらめける三日月型の木漏れ日のあやしくさやぎ金環日食
  (2012年5月21日午前7時30分京都でも金環日食が観測された)
同じ場に陽が金の環を見する日は三百年の後なりといふ
時世経て同じ地球に生を享け金環蝕をたのしむは誰
次の逢ひ思ひみるだに遥けしやおのれを塵とおもふ一瞬
銀傘(さん)の下ゆくひとが踏みまどふ数かぎりなき影の欠片
駅にして銀傘ゆ散る日の光三日月型の影なして散る
三分間の天体ショーに奪はれぬ 金環日食 金環日食
昂ぶりし声をあぐれば朝日子は月と重なり輪となるあはれ
刻刻に細き輪となる太陽をいにしへびとのごとく畏れき
いま(しか)とレンズに焼付けたりし影、一期一会の光芒のあり
鴨川の瀬にゐる鳥のふと消えて金環日蝕の薄暮も失せつ
春寒は爪先上りのあこがれも運びて今日のをだまきの花
つづまるに花は傍への水しぶき、わが日乗を鎮めゆくにか
寒暖に操られゆき疲れたり四季愉しむを既に思はず
(たかんな)()めてむかひし西の京白子(しろこ)といふを選びて買ひつ
思ひ出は父母に及びて更に延ぶ雲厚かりし北陸の旅
運転手、角栄さまのお蔭ぞと融雪道路の長きを指しつ
北陸の寺の名前も忘れしが笑みかたむけて円空ぼとけ
信濃川父が語りしふるさとに今し(まみ)ゆるその汽水域
竹の子と若布を炊かむほのぼのと山椒の実もみのりしからに
猫の髭にくすぐられつつ夜あけがたまだ起きて来ないのか人間!
『花界』といふ短歌と詩との競演に若さ零れて一号雑誌
手にとれば身のざわめくを 不可思議なひかり纏ひしわが小冊子
過ぎゆけば汗の出づるも若さゆゑ赦されてゐし恥のもろもろ
借りしまま返しそびれし『百閒』の古書も遺品ぞわが妹の
現在完了三つ重ねて止どまりぬ急がば回れ闇の彼方を
十歳(とを)の子がタップダンスを踊ってる 飽かず見つむるちひさき動画
なんとまあ幸せ一杯な写真 息子と父の笑みは弾けて
甘やかされ赤子のごとく在りつればやがて香に立つ花も見るべし
われのみが歳とりたりと()ひしかど女王陛下も老けたまひたり

▲上へ戻る