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2012年3月1日更新(48号)

遍路の道しるべ    馬宮 敏江

ひとつ散りまたひとつ咲く西王母師走の風にさきがけて咲く
この年の一番咲きか初嵐ゆっくりゆっくり蕾ふくらむ
朝の陽に障子一面はなやぎぬ軒につるせる柿の朱色に
受け付の娘の微笑みに見まもられ診察台に大き口開く
煮〆炊く匂い流れる大晦日お正月が押し寄せてくる
一輪を葉かげに咲きし白玉椿見てやれぬ間にぽとんとこぼれぬ
ひたすらにパン地をこねる昼さがり無心になれる私の時間
孫嫁ぎ四人となりし年越しそば夜警の拍子木寒夜にひびく
ちりじりと巣立つは常と知りながらこころ騒立つ女孫(まご)の嫁ぐ日
嫁ぐ朝 行くねと云っていだき付く女孫に貰ったハグというもの
餅焼くにおい灯油やさんの雪こんこ流れて今年の大寒に入る
風花がわたしの前を横切ってその三差路でふうわり消えぬ
「ロシヤパ~ン」売声流れし京城(けいじょう)を恋おしむ夫は少年となる
引き揚者と云うを終まで厭いしもやはり京城夫の故郷は
不倫ドラマ見し夜は亡夫の不倫せる夢に目覚めておだやかならず
どこまでも野の花道を歩き行く夢には膝の痛みも忘れ
立ち返りまた立ち返る春に会う八十路を生くるは思わざりしを
はなれ難き程よきぬくもり寒の朝五時起きなんてとても出来ない
臨海の空に直上(ちょくじょう)の煙いく筋 脱原発に揺れる関電
見渡すに吾より年上の無き車内凛々しき脚の並ぶ退け刻
スーパーへ今日は歩こうろう梅の柊南天の黄の花に会う
老い支度と古きアルバム処分せん開けば思い出に作業すすまず
戦に終りし時代(とき)は悔まねどセーラー服が少しかなしい
大寒のさ中にあれどひとひらの流れる雲は春の気配す
野菜入れに玉葱じゃがいも芽を伸ばす今日の夕食肉じゃがとなる
ご遷宮の切り出されたるご用材すみ付け作業は二尺・三尺
年ごとに重石を腰は拒めども待つ人ありてまた大根を購う
指先の欠けたる遍路の道しるべ 十一番へこれより三町
先人の祈りの跡を辿りゆくたんぽぽ、はこべら咲くへんろ道
大阪と堺を界す大和川千両曲りといわれ蛇行す
(明治の大和川付け変えに千両出して自分の都合の良い様に曲げて貰ったので千両曲りという)

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