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2011年3月1日更新(44号)

夜の明けるまで    馬宮 敏江

歳の内に咲きし柊返り咲く如月の雨に匂うこそ良き
散華 散華 地に撒く花びら根来寺に拾いし一ひら栞となりぬ
今年こそ思い果さん焦がれこし春日の杜の砂ずりの藤
人も車もおそれ知らずか鶺鴒の小おどりしつつ道路横断
いつの間にそっとほころぶ椿たち白玉、詫助立春の陽に
西王母、白玉椿の綿帽子積もるを知らぬ春の雪降る
何時以来息子とふたりの紅葉狩り山科陵のしんと静けさ
はなやかなパフオーマンスの毘沙門天山科の紅葉堂宇に映えて
この町に共に住みつき歳かさね順序たがはず旅立ちてゆく
おおよその結果は先に見えすぎて歳かさねるは夢もち難し
「はいお願い」「はいありがとう」朝食のパンに牛乳レンジにON
青空にクレーンの首伸び高だかと上棟式の槌音ひびく
門前の挨拶くれる警備員あすはわたしがおはようと言おう
みかけなくなりたる鵯のつがい来てがまずみの実はあっと云うまに
今はもう重役を経て只のひと時にはわたしに声かけ呉るる
残り葉を引き攫うがに師走風青桐音たて舗道をはしる
「八白土星」ことしの運は最高とかジャンボくじを二十枚買う
こぼれ落ちしセピア色の学級写真あのたたかいの始まりし年
また歳を重ねて減りゆくおせち料理今年は黒豆去年はごまめ
もみじ葉の一枚残りし枯枝に雀の一羽 土牛の世界
高齢の町となりゆき歳末の拍子木の音も絶え絶えに過ぐ
見学者の(ふいご)を知らぬを笑いつつ鍛冶師は説きぬ暗き仕事場
伝統を守るは難し手作業の「境の線香」暗き仕事場
眠られぬ夜はねむられぬままこし方の思い出つなぎ夜の明けるまで
夫在らば興奮止まらぬ季節(とき)至る肉塊ふつかるトライの激闘
過ぎたるは及ばざりしか整骨院五日続けて元より悪し
野菜やさん今日は文具や店を閉ず誰が名付けしシャッター通り
うす雲の月を包みてゆっくりとゆっくり流れて明日は満月
篭りいて日々伝えくる梅だより月ヶ瀬、南部(みなべ)も遠き思い出
豪雪に霧島噴火また地震なに狂いたもう天地(あめつち)の神

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