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2010年12月1日更新(43号)

猛暑の日々    馬宮 敏江

風知草風のながれに穂をまかせ秋深みゆく今日は西風
ひと筋に桜もみじの並木道ペダル踏みゆく散り果てぬまに
春を恋い秋を待ちつつ歳かさね秋分近き空の半月
日日の猛暑ひきさらうがの昨夜の雨涼しき風にうれしい目覚め
猛暑の日日をかまけてごろ寝に絶え間なく工事現場の音ひびき来る
秋彼岸かすかに猛暑のかげり見え近づく冬を早おもいおり
川霧のはれて覚めゆくうだつの町百年変らぬ風動き初む
「おばあちゃんもう梅田でよ」と運転手高速バスはふる里訛り
旅を終え裏戸を開くたちまちに吾が家の庭の匂いながれ来
見えぬほどの坂をおっちらペダル踏むジュース片手の 男児 ( ) に追い越され
髪を付け厚い化粧のチンドンヤ隈なき蒼空久し振りの街
深い空にゆっくり流れるうろこ雲赤いヘリコプターの横ぎりてゆく
雨の音の寂しさなどは思わざりし心に沁みる今宵の時雨
明るさについ誘われて庭に出る影踏み遊びのしたき満月
もつれ合い駐車場に飛ぶ秋あかね未だ残りいしこんな青空
彼岸近き空は何時しか秋の雲予報は明日も夏日と伝う
下校時の児等の一群に出合いたりペダル止め待つ歓声過ぎるを
尖閣の日々のニュースに気付きたり南北長きこのうまし国
若き日に夫と交せし文の束生活ゴミと共に消えゆく
電灯替え柱時計の電池替えひとり立ちです夫逝きてより
扇風機とストーブの入れ替え終了す年中行事に腰のばしつつ
貴女よりの形見となりし秋の実のリース掛けます 季節 ( とき ) めぐりきて
( ) ざかりの日を語るとき老い人の眼かがやき少年のごと
二十日前明るき声に話せしを今日ひと片の骨を拾いぬ
永年の友の柩車に従きてゆく田原の里の萩ゆれる道
土蜘蛛塚、 一言主神 ( いちごんさん ) の古代秘め黄金にきらめく千年銀杏
審査員の席に坐れる永田さん未だ深からん裕子さんの死は
月に一度集う小さき歌会ゆえ一人欠ければ気づかう仲間
病む夫を老老介護の友の日々とても言えない頑張れなどと
幾人に支えられ来し八十年おろそかならず残された日を

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