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2009年6月1日更新(37号)

日和佐の宿    馬宮 敏江

ひた走る飛騨路はすべて山の中啄木宿りし古川指して
十日ほど咲いて鵯遊ばせて今日は散る散る隣のさくら
白蓮のひと夜の雨に花果てぬすでに新芽の立ちあがりいて
葛城の野は霧らいいて高嶋の「吾家(わぎえ)」のあたりここといえども
盛り上る夕日ケ丘の楠の杜一()とも欲し若葉のちから
二階より鼻うたまじりの嫁の声隈なく碧き四月のあした
給付金素直に受けて同窓会ともに渡ろう鳴門大橋
凛として生きこしとして傘寿会語りてつきぬ日和佐(ひわさ)のひと夜
宴果て無口となりてぽっかりと穴吹き抜ける春の夜の風
濃く淡く若葉の覆う一山の裾彩りて桐のむらさき
海に映え淡路の(さき)の電力風車十基あまりのゆっくり廻る
病い得し娘に付き添う孫二人武蔵野の空にただ無事なれと
風ひかり花咲き満つに何故 何故娘はあつき病の床に
若葉風流れる窓辺に伏す娘尼僧のような頭に目をそらす
まだ覚めぬ商店街の春の雨沈丁の香り重くしずめて
道産(どさん)ものアラスカものと標示あり国境ありしや鮭の世界も
はなやげる日の出はもはや眩しくて夕陽に会いたく夕日ケ浦へ
暮れなずむ丹後の沖にいか釣りの漁火うるみて一筋ならぶ
車折(くるまざき)・蚕の社・帷子の辻ゆかしき駅名に酔い嵐山まで
窓を全開老いの臭いを吐き出そう春風連れて孫のおとずれ
若葉かげ昼餉を楽しむ老夫婦いつかの亡夫と吾のまぼろし
鳴門橋渡れば一望の蓮華畑露きらきらと蓮華波うつ
整形か眼科に行こうか迷いいる木槿の花がら掃きあつめつつ
「花ニ酔イ風ニ酔イ」莫山展童の面わでサインし給う
吾がために求めし湯呑みほんのりと藍をながせる志野のぬくもり
物干しは三日に一度見上げたる余寒の空に淡き昼月
長蛇をなし入館を待つ「おくりびと」横目に過ぎぬおくられ人吾
無視をして駐輪禁止の前に留む海原のように並ぶ自転車
吾がためにつくる食事の味気なし仙人になろうと思う夕どき
陽ざしの中アップリケなど刺しながら眠れるように旅に出でたし

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