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2005年3月1日更新(20号)

サンセット(30首詠)    月山 幽子

消耗をかさねるための活力を蓄へるべく筋トレをせり
なほ軽く強靭となる風切り羽充実感こそ天敵ならめ
内在の太陽神の磁気あらし昏くけぶりて涸くきさらぎ
宝石とファーを贈られ見返りに黄金の時間盗む盗賊
廃船に禁欲的なエロスもえ卵白いろの海霧のたつ
廃船のマストは逆立つ昆虫のナーバスな脚 風の傾き
廃船の彼方に朝陽のぼりきて照らし出さるる冬のかまきり
フリージャーとかすみ草の花束に秘かな悪意あたためてをり
蜘蛛の糸まじりてあらむマフラーか失速してゆく穏しきおもひ
成城にガラスの鳥を埋めたりきわれと触れにし人みな夭折
いまはただ上昇気流にのらんとし鳥は俯瞰を忘れてをりぬ
眠剤の効かざるほどにシナプスの絡みあふなり夜の深みに
声帯のつぶれるカナリヤ掠れたる声もて唄ふ九官鳥の傍
海といふ新陳代謝めつめつの死者よみがへり魚族とならむ
太陽と静かな海の前戯にてよろこびくゆる潮騒のうた
食彩に触るれば石に変りたる飢ゑの地平に蜃気楼たつ
細胞に天然水をためこみて大芋虫のごとくぶよぶよ
昆虫を解体してゐる幼あり天使と呼びてつけあがらせる
食彩に触るれば石に変りたる飢ゑの地平に蜃気楼たつ
細胞に天然水をためこみて大芋虫のごとくぶよぶよ
昆虫を解体してゐる幼あり天使と呼びてつけあがらせる
老人の肩のてふてふ蜜吸はず彼の乏しき時間を吸へり
あの凄き眼と触覚をもつからは韃靼海峡超えうる蝶は
魔女会議行はれゐる時間帯いそいそとして膾を作る
サンセットみてゐる鳥は何鳥か夕日にさへも染まらずにゐる
時といふベルトコンベァ―にのせられて死の予備軍が体操をする
犬死はあれど猫死あらずして跳躍をする撓やかな線
詩人とふ奇妙な奴が題材に拾ってくれた月に吠ゆべし
ひとはみな魔の風景を持てるらし たとへば竹林たとへば沼地
鉄板はマイナス100度じりじりとキューイの巨大な卵を焼かむ

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