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2003年6月1日更新(13号)

春寒    鈴木 禮子

幻聴のごと聞えくる春の音 あかるき光浴びて佇てれば
風花の乱れ乱れて春寒しよしなしごとは捨てよと声す
(いね)ておもひ醒めても思ふ煩ひの恋にあらねば術なかりける
冷えつのる夜のくだちに抱き寄するアメのやうにぞ伸びたる猫を
誰かひそと読みたまひたる気配ありホーム・ページの〈迷走地図〉を

あだばな

歌とはなに?見知らぬ人に出す手紙 さればかそけき露の雫で
しっとりと質感あつき松葉菊てのひらに載せ楽しむこころ
真白なる木蓮の花天を向く夢かあらずかかの殉教者
小雨ふる歌舞練場の裏通り痛みに触れてさくら散る日か
それぞれに深く関はり離れざるあだばな腕に抱へて歩む

井手の玉川

これの世にひとり残りし弟と桜見てをりかりそめならず
聖武帝の桜狩など偲ばせて井手の玉川水光るなり
耳くすぐる祭りの囃子 いますぐに迷ひこみたき人のふところ
みたらし団子焼くる匂ひのただよひて春の出店は幔幕を張る
ありありて何なせしかと問ふなかれ春には桜秋はもみぢ葉

この腕に

たふときは青葉にそそぐ陽のひかり捉へられざるものありったけ
葵かづら(かむり)にかざし歩みゆく賀茂の祭りもひさしくを見ず
いささかの齟齬ありて断つ糸ありて崩るる疾し人の繋がり
人波が組みつほぐれつ揺れてをり人智及ばぬことの妖しさ
よろこびが君の詩ごころ燃やししか丑三つ時にとどくフアックス

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