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2002年12月1日更新(11号)

ましろき眠り    月山 幽子

冬の日のガラス細工の鳥さむし両の手に抱く温めむとして
手のひらを流るる川の水源は憎しみのなき日の差すこころ
数本の造花もとめて帰りきぬ枯れざることを荒野と呼ばむ
この道は滅びに到るみちなるもいまかりそめに仄明りせる
鉛いろの沼のひととこ明るくて魅惑されゆく愚かなる魚

熱ある幹

かそかなる熱ある幹の公孫樹きけんなまでに黄を煮つめゐる
訪ひゆかむ銀杏が裸になる日にはクリスタルなる霜ふみわけて
無感動それもゆらぎの類ならむ濾過してみれば残るはなびら
恒星になりたきものぞ惑星のしたがふことの無念なひかり
丘の辺に病院たちぬ幻か人間だけは診療せざると

滅びのあとに

紺と黄のぼかしの夕空さびしきか階下の犬のパニックの時
捨ててきしものは氷れる貝塚に微光はなたむ滅びのあとに
わが家には磁石の狂ふゾーンあり穏しき舟の沈む夕暮
むらさきの猜疑の炎くすぶるも偽善者たらむ日輪仰げ
地上の音狐の尻尾のやうになり太く育ちて高きへ昇る

冷たき指で

まっしろき犬のつきくる夕闇に白といふ色なかなか溶けぬ
どうしてもとけない縺れ二時間をみづみづとあり短歌つくるより
原産はペルシャの柘榴 邪教じみ買ふ気になれぬに見らるる気配
マリア様は私生児産めり悪びれず早春の夜の神の強姦
帯解けの里に流るる風は妖 受胎といふは淫らなひびき

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