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2002年12月1日更新(11号)

ひつじ雲    鈴木 禮子

土用波に攫はれゆかむとせし記憶 秘めたるままに長き時過ぐ
過呼吸で心気朦朧となるまでにスイマー競るか蒼きプ―ルに
ひつじぐも青空に満ち、行く夏の阪奈丘陵の新しき都市
大理石のプレートひかり国立国会図書館(としょかん)が間近き秋の開館を待つ
女嫌いの人を思へば秋天の星のごとしも往きてまみえむ

カゼクサ

草の名を「カゼクサ」とわが知りてより不意に慕はし秋ふかむ日に
ひとかかへのカゼクサ抜きて秋となる「去る」といふ感じなり夏は
群に在るを心底否む昼すぎてふたたび人の影を踏みゆく
薄明とは日暮れの明り、日本語の含蓄に酔ふ昏れはつるまで
わらべ歌遠きほほゑみ揺れながら暫く散るなシコンノボタン

消えし梅林

俯瞰する街白々と展けをり足を(どと)めて亡夫(つま)も見し景
数台のシャベルカー土を捏ね回し時の彼方に梅林も消ゆ
野の草もキャベツ(ばたけ)もあとかた無く新区街地に六間道路
足に硬きコンクリートの路が延ぶ(はた)を埋めて梅林薙ぎて
痛む膝をかばひて一人歩むとき間延びのしたる「時」が添ひくる

波 紋

アサギマダラ かよわき蝶が渡りゆく一千キロの洋上の闇
鰯雲あふれて光る小春日を人の背反ありて愉しまず
己が意思を他人(ひと)に負はせて憚らずあはれ小さき尻尾垂れたり
瞬けばつるべ落しに移る季のドラマと言はむわれ在ることも
浴槽に湯はあふれゐてひっそりと未生のわれが夜をひたりゐる

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