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2002年9月1日更新(10号)

蝋燭    月山 幽子

うすべにのらうそく二本風なきにわづか差をみせ燃えつきにけり
小さき虫入りても花の開くまま蛍袋はかく生れつく
()と煙なき線香に火をつけるなすすべもなし無力の死者は
新しき鍋あがなひぬずっしりと重く生くるは煩はしくて
黒ちかく変色なせる血液のはげしく流る脈をみだして

発 芽

白亜紀の星座をかくす夜の霧を掬いてをりぬ酔ひしれるまで
バッカスの挑発ならむ小量のワイン欲しがる夜の発芽す
(きぬ)へだて触れあふ老いと青年と電車の加速かくれみのなし
ローズマリー料理に入れず青年の汗かほる靴に入れる女あり
わがむくろ鼻に綿花をなつめそ朱なるそうびの花つめるべし

弱肉強食

生きるとは弱肉強食やまかがし緑したたる雨蛙のむ
ほととぎす肺を啄ばみ傷つくも内にあふるる銀河の泉
はらわたの量減るごとき飢ゑありぬ虫をとれざる食虫植物
方程式低きレベルに用ひらる神秘な光はなつ数式
目をもたぬ胎児を土に埋めにきそのあとに燃ゆのうぜんかづら

薬 臭

くれてゐしあの夏の日の思ひ出の蛍のやうに点滅をする
うるみたる魚の目玉をくりぬきぬ誰でもなれるネロの末裔
扇子には海賊船のゆれてゐてどくろの旗ゆ潮風のたつ
ゼラニューム薬臭おびて散る盛夏スペードの女王誘拐さるる
姪つれて姉の訪ひなば如何にせむこの贅沢を見られたくなし

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