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2001年12月1日更新(7号)

支柱なきもの    月山 幽子

死者を食む犬の映像見てをりぬ私は何に食べられるのか
二上の山のあたりで感受せるあのざはめきは冥府に属す
夏の日の脳の揺曳支柱なきひるがほの花ゆらぎゆらぎて
魂があるとするなら空間は交通整理の必要あらむ
金色の微粒子舞へる朝にしてナイフとフォークかろやかな音

すこしみだらに

冬に入り細胞の水硬くなり夜想曲など聴くこともなく
ぶらんこを加速しながら漕ぎゆけば自分を飾る鱗の剥げる
夕ぐれのだあれもいない公園に風の漕ぐのか鞦韆ゆるる
快き疲労のなかに微睡みぬすこし甘美にすこしみだらに
夕ぐもの縁が冷たく燃えてをりポインセチアの赤深まりぬ

偽悪の罠

杜鵙草咲ける庭辺に佇みて悪事の構想練り上げてをり
脱皮せるたびに光沢増しゆかむ銀光放つ蛇のぬけがら
動物の顔となるらむこのわれも肝の類を食める時には
良き人と言はるることの含羞に偽悪の罠を仕掛けてしまふ
月の夜にらせん階段降りてくる人にあらざる撓やかな影

エチュード

最後までエチュードならむわが短歌今夜はショパンを聴きたくはなし
柚子いろの冬の光に溶けさうに仮眠してゐる若き母親
鈍化した煙のやうな光なりPM四時の軽ろき憂うつ
消しゴムで消せない過去をもつゆゑに充足のあり驕りもありて
強さうで淋しがり屋の男あり背筋のばして焼き芋を食ふ

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