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2001年12月1日更新(7号)

ジハード    鈴木 禮子

昭和初期に「聖戦」の嵐吹き荒れつ今イスラムに聖戦(ジハード)の声
夏ややに果てむとしつつ積雲は空覆ひたり隣国にテロ
「さらば祖国!」と征くをとどめよ吾は囚虜のすゑとし生きき
戦いを知らぬ世代のともがらがいくさをせむと忠誠をいふ
眼の奥を打ち抜きてゆく弾道の記憶がありてねむりがたしも

仮 眠

横晩夏光そびらに受けてゆく男あれは訣れし夫にあらずや
「仏のトクさん」と人は呼びたりわれの知りしは死の後のこと
いつの日か逢ひしことある人の顔 等持院足利歴代の像に
姥ならば巫女となりなむ虚と実のあはひに影のさはに見ゆれば
星と鬼は分身なりと聞きしよりわれは密かに鬼を飼ふなり

水師営の会見

錆朱いろの棗の木の実ひろひたり あゝ「水師営の会見」のうたが
水師営と云ひても人は知らざらむ日露の役の後のはやりうた
血と雨にYシャツ濡れしと岸上の短歌ありしがはや難解歌
死語あまた抱へておもりゆく日々に陽のみがやさし陽の眼差しも
気圧の谷日本列島を横切りてほどなく冬がすべてとならむ

みせばや

木のうれへ向けたかだかと駈けのぼり実をむすびたり朱のからすうり
忘れられしやうな「みせばや」花着けて秋の残光が僅かにあそぶ
紛れゆくことこそよけれ屈みたる身体を闇におよがせてゆく
散りゆくに見得きるごとく際立照り夕日を受けてさくらもみぢ葉
残月の凄きをわれは出でて見ず若かりし日はいにたるゆゑに

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