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2001年9月1日更新(6号)

夏の花束    鈴木 禮子

自らを慰めむとして旅に出づ 鳴門・渦潮・蒼き眩暈(げんうん)げんうん
天国へ投函せむかコクトーの青したたれるポストカードを
ぬばたまの黒き夜空に星生れぬ ももいろ星といふを知らずや
飛行機が墜ち火薬猛りていにしへの民の知らざる日々を生きをり
「いい女に磨きをかけてください」と子に贈り来し夏の花束

夏たけて

横ざまに墜ち来し蝉は絶間なく地を羽撃(はねう)つもやがて熄みたり
(あした)見し蝉のむくろは夕さりて影すらに無し贄となりしか
鳥葬といふがありけり虫葬となりたる蝉に夏日は灼けて
百日紅の白はしづけし夏たけてものみな萎ゆる昼の最中も
ひとを悼む季節なるべし夏の花、(はちす)、ゆふがほ、野の萱草(わすれぐさ)

猫サーカス

夏果ての空の色なり大阪のビル染めて白し雲のひとひら
「ご覧あれ世界で一つの猫サーカス」出稼ぎ劇団のネコが走った
人も我もさして変わらぬ総仕舞 残暑しるけき盆の通夜あり
「死の終りに冥し」と云ひし空海の言葉ある日は脳裏を去らず
トムヤムクン啜れば熱く喉灼けて暑は(しん)をもて制すべきかな

幻 影

思想とは遂に何だと記しをりソ連邦崩壊の日の亡妹の日記
盆といふ得体の知れぬ幻影にまどへばやがて咲く酔芙蓉
これの世に倦めば茫漠と白きかな異界といふはいづべなるべし
かりそめの世辞に過ぎざるひとことに吾は泪す霧の中にて
さにづらふ乙女ならねば言の葉は鳥が咥へし木の葉と思へ

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