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2000年12月1日更新(3号)

ゆがむ窓    月山 幽子

ドリアンはけものの匂ひ放ちつつ受洗の娘の胃袋にあり
滅びゆくものの一つかこのわれも海鼠のような体質もてぬ
静電気激しくはしる現し身が都会の椅子にもたるるときに
よごれたる腑の色みせて大都市に夕日現れ窓ゆがみそむ
無造作に貼られたシールか満月と認むるまでの時間の長さ

発 疹

少しづつ狂へる時計あまた持つ男は枇杷の種子を恐るる
不順なる都会の空はかろうじて落下を逃るる高層ビルに
オペ室の紫のひかり液化して痛覚 死覚を流してしまへり
茹卵つるりと剥けぬ不快感ゲーム遊びの(タグイ)となさむ
「君」といふ文字を見しより花の芽に似たる発疹つめの上にも

孤 立

初蝶の鮮烈もなき都心地に夕べしづめる姫しゃがの群
低空をまわりゆく飛機 ひかり透かぬ海よりのぼる一匹の鮫
かくし持つ汚辱云うまじ街川に束の間なれど水のきらめく
無表情に桜眺むるホームレス記憶の花は生きているらむ
乱れつつ巷に立てる八重桜 うつぼつとして孤立せるかな

不穏の風

陽のささぬ畳次第に黒くなり自家中毒をおこしはじめる
ベランダのパン屑あれど鳥は来ず几帳面に鳴る古き鳩時計
豹の紋うきたつバナナ手にとつに不穏の風が吹きはじめたり
暗闇を正体不明の使者の来て大切なもの盗みゆきたり
はつなつの一団の雲に眠れるはうまれるまえの脳なきわたくし

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