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2000年12月1日更新(3号)

シャガール展にて    鈴木 禮子

花と夢、結婚式と宴の図飽くなく描けりマルク・シャガール
人間の眼をせる(ケモノ)描きつらね優しさこそが命と云へり
シャガールの手に成る獅子の優しくて睫の長きをみなの如し
画布を染めし旧約聖書の物語 人の眼差しをせる獣も添ひつ
世の中で一番哀しい物語 シャガールは描く サーカスを描く

北のくに

さいはての小樽の街に日暮れきて白熱灯のだいだいのいろ
海を担ぐ青函トンネル潜り抜け越後、越中、越前を過ぐ
ゆるゆると寝台特急走り継ぎ白山・関谷、父母のうぶすな
エクスプレス速度競はず昔日の如く無人の駅を過ぎゆく
みちのくの秋のつぶつぶ七竈朱のいろ増さむ冬きたる前

大 福

面白くも可笑しくもなき歌草を強ひて読みをり何かが違ふ
感性の起伏乏しき晩年か雑草(アラクサ)延びて木賊は枯れて
本屋へも寄らむとすれど戻りたり身の限界は自づから知る
ワゴンの配送ひとつ頼みて「大福」を買えばそれにて一日(ヒトヒ)の終り
屑歌と思へどしんじつ棄て難し屑歌にある屑歌の味

札幌は雪

自鳴鐘(オルゴール)不意に鳴り出づ秋雨の湿りをおびて去年(コゾ)の音色に
消えたるは菊花の契 失楽を重ねかさねて老い深みたれ
札幌は雪になりしといふ便りかの昏れがたの焚火のごとし
伝へ得ぬ言葉ひそかに積れかし或日寄りきて去りしものたち
霞のやうに心地よき人得たりしが消えゆく運命(サダメ)ありてか去れり

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