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2000年9月1日更新(2号)

無精卵    月山 幽子

稲妻に染めあげられし夕顔の巨大となりて顔おおひくる
暗闇に硝煙の匂ひたちこむる湿度の低き老細胞より
無精卵ころがし遊ぶ退廃を挑発してか落雷のあり
比較的乏しき食品冷やされて無精の卵異様に白し
スペードのカード一枚みちばたに蝶のむくろの変容として

動 脈

くらわれて骨ばかりなる太刀魚ゆ波状につたはる海賊の唄
一本の腸管として夜の電車鉄橋渡る灯をともしつつ
牡蠣といふ臭ひはげしき軟体を歯のなき口が吸引したり
動脈の中まで走る救急車 ありふれている死の交差点
地下室のタコ足配線 家族をも愛さぬ男画像に酔へりり

ミイラごっこ

ギザギザの線のみ書けり細胞にミネラル・ヴィタミン不足がちなる
幼らはトイレット・ペーパー巻きつけてミイラごっこに大童なり
地につもる花びらぬれて発光し霞たなびく老いのまなこに
竹林の向うに明るき陽のさして真白の頭蓋ならべられいる
腐りたるバラの蕾をちぎりとり老女はなほも幻を追ふ

言葉の刃物

暁に透ける妖精なぎたおす欲情したる四輪駆動車
西日さす暑き厨に醗酵をすることもなく酢は静かなり
ももいろの産毛の少女まゆひそめ芥子の蕾はかび臭いと言ふ
宙を飛ぶ言葉の刃物 体内にアドレナリンの分泌のはげし
体より離れしものは疎ましく自己愛の枠きめかねいるも

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