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2021年5月1日更新(81号)

春の序章     鈴木 禮子

地表をば覆ひ尽くししコロナ菌 危ふきさまに年余が過ぎた
老い痴れし歌友の数を数へつつ語るを聞くか長き電話に
語部(かたりべ)の姥捨て山は(さま)変り、声も途絶えし老人ホーム
わが顔をじっと見つめる眼が怖い何も語らぬ瞳が(こご)
風水害・地震・旱魃(かんばつ)・疫病と細りゆくにか地球も人も
死語と呼び人の使はぬ言葉あり使わねば皆消えて行くなり
「何でも聞け」とふパソコンにどっぷり漬かりひと月が過ぎ
ずれた答えもありまして付き合ひ行くには手立てが大事
(まと)得たる答得るまで試し打ち、いつか夕べの(とばり)が下りる
ジェイアール桃山駅の一木(いちぼく)()に豪華なる避寒のさくら
荒れし日が漸く過ぎて満開の櫻を見たり日本のさくら
三月も終らむとして晩春の桜舞ひ散る さらばよ京都!
歌心、低迷を増し足進まず 愉楽ふたたび消えむとするか
梅月も十日を過ぎて明るめば咲き(たわ)むなり春を待つ花
禁令の緊急事態宣言に若しやと惑ひ決断付かず
首都圏の緊急事態続行す。如何にかなさむ対コロナ戦
汚職とふ(やまひ)も流行る産土(うぶすな)のふ大臣(おとど)を視るかテレビニュースに
政争の一つと呼べば事なくて要人深く(いや)のみをする
葦原の瑞穂の国も荒れ果てて何処(いづこ)にゐます救世のひと
いのちとは暖かくして明け方に猫のピノコが(ふところ)に来る
猫の体温38度と聞き及ぶ温み千金ふわふわの毛も
蝋梅は寒をよろこぶ花にして密々と咲く枯れざりしかな
波濤の図、世に残したる北斎がろくな猫さへ描けぬと泣いた
どの記事が好きかと聞かれ迷はずにコラムと云へばツウだと笑ふ
世の中は(たま)に笑ひの時があり櫻古木も艶然とする

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