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2011年12月1日更新(47号)

わたしは家主    馬宮 敏江

かえり道手折りしすすきに桔梗添えひとりの秋を花籠に盛る
秋刀魚焼くにおい流れる夕まぐれふと故郷の「すだち」のうかぶ
永源寺へ男孫女孫に支えられ嬉しさびしと石段のぼる
茜さす蒲生野に来て嫁と孫「沢庵バーガー」のお店に走る
すすき揺れ彼岸花咲く近江路に騎馬かけ抜けし修羅の日おもふ
朝夕の風にほのかな秋の匂い旱天の庭に椿生きづく
昨日は夏日今日は24度温度差に泣く体の節ぶし
故郷を襲う豪雨に心いたむせめて半分この地に降れよ
12号近畿地方に接近す 東北よりは とみんなうなずく
ひと回しペダル踏む間を三回転漕ぐ娘のみるみる遠ざかりゆく
楽しみに待ちいしドラマ友よりの長き電話にふいになりたり
コンサート終えて見上げる茶屋町の空に満月また生かされている
変りなく声かけ呉れし亡夫(つま)学友(とも)いつしか生死もおぼろとなりぬ
再びを門扉のひらく日のありや友逝き夫は施設に入ると
竜泉寺の庭拝観に来し河内荒れし蓮池松風の音
森閑として高貴寺の庭寺守りの犬が尾を振り迎えてくれる
悩ましき香りふりまき木犀の すぐ冬だよ と肩にささやく
つつがなく送るが日日の仕事にて百歳(ひゃく)まで生きなば はてどうしよう
虫干しの着物の下をかいくぐり遊びしむかし梅雨明けのころ
木犀とカレーのにおい混じりあい小学校に昼餉のチャイム
来年も着られますよう 気に入りのレースのブラウスしまう秋の夜
ストレッチャー押す人乗る人付き添いもただ無表情に吾が前を過ぐ
友の日日心休まる時ありやがんの夫を介護の一年
冬空に輝く星を天狼と教わりし師のすでに在さず
心臓もいい音してますと医師の声百まで生きて良いのでしょうか
新聞の隅から隅まで目を通す母のならいの吾が身に付きぬ
稚なきを残す俳句の日記帳病の床の亡母(はは)の筆あと
群がりて梢の柿をつつく鵯弱きは追われる霧ふかき朝
軒下を無断使用のすずめ蜂刺すな騒ぐなわたしは家主
すずめ蜂の巣の駆除完了早々の請求書届く三万円也

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