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2003年3月1日更新(12号)

ゲルニカの人繪    鈴木 禮子

『ダンシングオールナイト』をハミングす仄明りゆく心とともに
さとうさんといふ若人がにこやかに荷を渡しくれぬ 大晦日
プラネタリュウムの星空フェードアウトして時移るとふ言葉思ふも 
野の草も食みつくしたる敗戦忌 猫のすがたも絶えて見ざりき
反戦の波アメリカへ ゲルニカの人絵は泛くも昼のなぎさに

王母

忘れられし夢のやうにぞ点滅す冬突堤のかすかなあかり
正月にタイ風の麺すすりをりザムザ氏として果つる日あらむ
いちにんの喜怒哀楽も(なら)されて時の彼方に咲く風知草
さむざむと()さきローターリーに風たちてふと目の合ひしまだら毛の猫
とりどりに南斜面に咲きさかる西王母とは()が名づけたる

冬物語

さきがけの花ことごとく黄の色に厳冬の日の明りなるべし
『斎藤 史』を世にあらしめし物語り読むに相応ふか風つのる夜は
帽子(キャップ)よりポニーテールが揺れしかな()が若妻の日も過ぎむとす
〈勿体無い〉〈ばちが当たる〉と言ふ言葉消えなむとして冬の夕照り
焚き火といふ優しきならひ 寄りあへる人の暮らしも消ぬべくなりぬ

しがらみ

蜘蛛の巣は日がな一日揺れ止まず獄卆のごとく(まだら)蜘蛛ゐて
戻りゆくこと叶はずて入り組みし人と人とのしがらみの糸
窓とざし誰も彼もがひっそりと息するやうな老人ホーム
(まなこ)のみわれを追ひつつ何もかも忘れられゆく痴呆病棟
橋梁をわたる電車に入りきぬ春・加茂川のきらめく水がる

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