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2002年3月1日更新(8号)

逆説的    月山 幽子

一株のすみれが庭を覆ふまで流れて消えし隕石の数
公孫樹の葉触るれば古代の匂ひくる生きてる化石と死にたる化石と
よき言葉磁石のやうに幸せを引き寄すること鬼女が知りたり
消しゴムで字を消すときの楽しさよ消したき人の数人ありて
独りだけ仲間はずれの食を取る構図もなかなか逆説的で

饒 舌

二十五度を保つ部屋なりばらの花開花につれて饒舌となる
鉛色の雲たれこめる夕ぐれに指の関節ポキポキ鳴らす
ばらの息かそか空気を動かして波打際の襞をつくれり
真空の静謐みてるこの部屋にばら語がわかると鬼躁ぎをり
あばれ獅子二人の子供の母なれば菩薩となりて慈しむなり

逆立ち

常盤木に黄なる果実をみつけたり臨月前の胎児の()ほどの
脳もたぬ植物なるに人よりも感受しなやか癒してくるる
山茶花のくれなゐ覗く 初潮など無縁と少女は逆立ちをせり
匂ひなきばらは凍れるデスマスク尻尾切られて死なざる石竜子(トカゲ)
オレンヂのばらの彼方に戦火たち砂漠に転がす死者腐りゆき

次の嘘

蒼穹に消えてしまひしぶらんこの夜には天使を乗せて降りくる
一滴の酒も飲めない偽悪者の朝より不幸に酩酊をする
ケシゴムがないと不安の勃起せり消さねば次の嘘が書けざる
海水に海月の大群ゆれてをりマリオネットは揺らされてをり
ばらの花みつめすぎたる閑人の思はぬ花の抵抗に逢ふ

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