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2001年6月1日更新(5号)

植物的    月山 幽子

枯れてゐし泉にさやぐ水の音 五月の森は懐疑をもたぬ
造花より蝶とびたちぬ まぼろしを信じるほどに気温はのぼり
下半身 植物的と思ふとき二本の腕を宙にそよがす
脳細胞分裂しすぎ にんげんの頭の形歪む日の来ん
都心地に花みずきの花かがよふを誰にも告げず黄昏となる

扉をたたく影

乱反射の森かけぬけて来し人のこれみよがしの乳房のゆらぎ
じゃがいもの芽はくれなゐに透けゐるも致死量ほどの毒はあらざり
焼き魚を焦がしてしまへり嗅ぎつけて扉をたたく影のごときが
右側と左側とがずれてゐる体に気付く牡丹散る昼
夕闇は色を深めて黒となり眠れる鳥を探せと迫る

仮死状態

それはもう月と呼びうるものでなく都会の空の腐った果実
垂れ流しのさまに車は騒音を天上に撒く 人間が怖い
卓上の青きバナナは黄になりぬ 切り取っている時のかけらを
レイプするごとく都会の騒音は美しき五月をこなごなにする
点検日エレベーターの止まるとき仮死状態となるあまたの部屋は

有刺鉄線

飛機よりも速くよぎれる窓の鳥 錯覚に馴れて明るく暮らす
みづからを芥子とは知らずおほらかに五月の丘に芥子はもつれて
家族四人食卓かこむ風景を団欒といわん健やかなひとは
スカーフは五月の風にさらはれて有刺鉄線こえてしまへり
動物的な種をかくして枇杷の実はガラスの皿を金色に染む

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